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【書評】リチャード・ドーキンス『神は妄想である』

 

神は妄想である―宗教との決別

神は妄想である―宗教との決別

 

 

 んー、予想はしてたけどやっぱり期待はずれ。まずなによりこの本ってどうみてもアジテーションのなんだ。頑なな宗教者には「この無知どもが、分をわきまえろ!」と怒鳴りつけ、信仰のゆらぎに苦しんでいる人たちには「さあ、こっちにきていいんだよ」と微笑みかけ、ふつーの信仰者には「やれやれ、まったくこれだから…」と蔑みの眼差しを投げかける、そういう本なのだ。宗教という現象を大風呂敷広げてシステマティックに説明しようと意気込んだ本じゃない。ネタを小出しにして5つ6つぐらいの方向から宗教を攻撃するといった本なのだ。で、猖獗する宗教勢力に立ち向かうという意味でうまくやってるとはおもうけど、そういう本だからそのくどさも相まって、 僕らとの間に温度差が生まれてもくる。

 といっても、このひとのような科学啓蒙家がどういう風に世界を見ているのかがわかるから、まあおもしろい本であるのは間違いない。1章では「あ、宗教でーす」と言っただけで特権的地位が得られてしまう現状を批判し、2・3・4章では、不可知論者も姿勢を正すよう諭して、神(知性を持った人格神)の存在を一つの仮説として他と同列に捉えようではないかという前提で話を進める。「宗教のみが扱うべき神聖な領域」なんてのを勝手に確定してそれをひたすら死守しようとする姿勢はこれ以上滑稽なものはないとばかりに嘲笑され、彼らの無知蒙昧が満天下に知らしめられる。宗教的世界観は論理的にはぼろぼろの状態で、そこにあるのはただ頑迷な信念だけ……そんな状況が活写される。宗教者の論理が破綻しているのをつめていくところは爆笑しながら読める。5・6・7章では、宗教を信じるための心のモジュールの起源について、そして「宗教がなくなったらそれも同時に消えちゃうぜ!」なんて言われている道徳の起源について、最後に宗教死すとも道徳死せずという話が、それぞれ語られる。8章では宗教的真理の絶対主義がいかに害毒を振りまいているのかについて、9章では幼気な子供たちの心がどのように捻じ曲げられて信者の再生産が行われているかについて。最後の10章で、宗教的な感受性は科学的な感受性によって十分代替できると述べて締め。

 面白かった。でもやっぱり、そんなに程度の激しいものじゃないけど、一面的な議論ではあるよっていうのはひしひしと感じるところ。なんで彼らはそんなのを信じ続けているのだろう? 何かを信じる根拠があるってどういうことなの? 科学と宗教の違いってほんとのところどういうものなんだろう? ある人間が宗教文化のなかで生まれるってどういうこと? 何かを信じてることに尊厳が認められなきゃダメって一体どういうこと? ーードーキンスの文章はそこかしこに怒りがほとばしってて、執筆中にアドレナリンが放出されてる姿がありありと浮かんでくるのでけっこう笑えるんだけど、やっぱりもうすこし信者さんのほうに寄りかかった姿勢で、というより知的な誠意を持って、そして静謐な環境のなかで書いてほしかったなと思うのだ。様々な要素がほつれて絡み練り合わさってできた異様に複雑な構造体、あるいはそこにぼんやりとその姿が浮かび上がる宗教なるもの、その複雑さを前にしたちょっとばかしの諦観なり達観なり、そういうものがほしかった。文化に対する畏怖の念が欲しかった。そしてそれはこの本の中にはなかったように思うのだ。ーーさはさりながら、ユーチューブで厚顔無恥な盲信者たちの垂れ流す不合理の汚物を目にするにつけ(https://www.youtube.com/results?search_query=dawkins)、こやつらを放っておくわけにはいかんと怒りの念が湧いてきて、頑張ってくださいドーキンス先生!とニタニタ応援してしまっている自分にハッと気がついて......うーん、共生は大事ですな。

【ブログより転載】

 

 

ps

"Belief in God and subscription to a religion are not quite the same thing"

"What is missing from the book is much sense of what a world without religion, or one that had not had religion in it, might look like."